インターフェロン製剤によるうつ病~薬剤惹起性うつ病

6月に厚生労働省が重篤副作用疾患別対応マニュアルで「薬剤惹起性うつ病」に関するマニュアルの掲載されている、インターフェロン製剤によるうつ病を紹介します。

【インターフェロン製剤によるうつ病】
2001 年12 月に、C 型慢性肝炎に対して、IFN/リバビリン併用療法とコンセンサスIFN 療法が承認され、2002 年2 月には、IFN の投与期間や再投与の制限が撤廃された。さらに、2003 年8 月にPeg-IFN 療法が、2004年10 月にPeg-IFN/リバビリン併用療法が承認された。このように、従来の方法では限界の見えたIFN 療法が新しい時代に入り、IFN(Peg-IFN)が使用される機会は再び増加傾向にある。IFN(Peg-IFN)使用中には多彩な副作用がみられることは周知の事実となっている。中でも、精神神経症状はIFN 継続を困難にする重大な原因の一つである。以下に、IFN の副作用としての抑うつ状態・うつ病に関して概説する。
(1)IFN の副作用
IFN 投与初期には、発熱、頭痛、全身倦怠感、食欲低下、関節痛、筋肉痛、悪寒などのインフルエンザ様症状がほぼ必発であり、IFN 単独治療では発熱は38℃以上になることが多いが、Peg-IFN での発熱は多くは38℃以下である。発熱に対してはしばしば非ステロイド性抗炎症剤で対処する。インフルエンザ様症状の強さはIFN の用量に依存するが,約1週間で、いわゆる「慣れ」の現象がおこる。しかし、中期以降にもインフルエンザ様症状が持続し、IFN の中止や精神症状発現の契機になりう
るので、十分な注意と対処が必要である。その他のIFN の身体的副作用に関しては、ここでは割愛する。
(2)IFN による精神神経症状
①IFN による精神神経症状の種類
IFN による精神神経症状の中で、最もよくみられるのは抑うつ状態であり、次いで多いのがせん妄である16,18,19,23)。他にも、極めて多彩な精神神経症状[不眠、不安焦燥状態、攻撃的な性格変化、躁状態、幻覚妄想状態、けいれん、軽度認知障害(健忘、短期記憶障害)、傾眠、昏睡などの意識障害(いわゆるIFN 脳症)]が報告されている。ただし、精神神経科医のもとで薬物治療を必要とするような副作用の頻度はIFN 単独治療でも数%である。
また、これらの症状は、必ずしも独立して起こるわけではなく、縦断面で、不安焦燥状態~抑うつ状態~せん妄と移行したり、横断面でも、抑うつ状態に軽度の意識混濁や健忘を伴う場合がある。
②IFN による抑うつ状態の特徴
IFN による抑うつ状態は、大きく精神運動制止型と活動型の2 群に分けられる。前者は、全身倦怠感を伴い、意欲、活動性、言葉数、自発性の低下、興味の喪失を示す(全体にぼーっとした印象)で、後者は、強い不安感、焦燥(いらいら)感を前景とし、時に攻撃性を伴う(医療スタッフや家族に対して易怒的となる)。後者の方が日常診療で問題となることが多い。
近年、IFN による抑うつ状態は、純粋な抑うつ状態というより、抑うつに、焦燥や敵意、易怒性が加わった抑うつと躁の混合状態が多いとも報告されている。
③早期発見と早期対応のポイント
多くの場合、抑うつ状態に不眠や軽い焦燥感が先行する。寝つきの悪さや、日中のいらいら(こらえ性がなくなる)が出現した場合、早期にベンゾジアゼピン系睡眠薬や抗不安薬を使用することが推奨される(後述)。稀に、明らかな前兆もなく激昂したり、投げやりな態度、衝動的行為(入院中の無断外泊や飲酒など)、自殺企図がみられたりする場合があるが、その場合も注意深く観察すると、不眠と焦燥の先行がある。
④IFN による精神症状の診断
IFN による精神症状は、IFN との時間的関係、IFN の減量や中止により精神症状の改善をみること、縦断的にみると精神症状が多彩に変化することなどから診断される。その発現形式は、Wieck の通過症候群としてとらえられる。
通過症候群は、正常の精神機能状態から意識混濁へ移行したり、逆に意識障害から回復し正常状態に移行するまでの中間段階を指し、その程度に応じて、発動性の低下、情動の変化(抑うつと躁)、気分易変性、健忘、幻覚・妄想などを生じるという概念である。IFN による精神症状は全体として通過症候群の特徴を備えている。その証拠として、IFN 使用中には、一見意識清明に見えるにもかかわらず1/3~半分の患者において徐波化(基礎律動の徐波化、α波減衰の消失、徐波群発の出現、光駆動反応の増強、過呼吸後の回復不良など)を中心とした脳波異常がみられる。このような症例では、活動性・言葉数・自発性の低下、あるいは短期記名力低下や問題処理能力低下などの軽度の認知障害を示すことがある。
⑤IFN による精神症状の頻度
IFN による精神症状の頻度は、研究により精神症状の取り上げ方の基準が異なるので単純な比較はできない。我が国において、IFN 療法中のC 型慢性肝炎患者85 人を前方視的に追跡した報告では、IFN 療法中にうつ病エピソードを満たした者が37.3%、IFN を中止したのは9例(10.6%)であり、その主な理由が精神症状によるものが4 例(4.7%)であった。また、積極的な精神科治療かIFN の中止が必要であったのは14.1%と報告されている。
我が国では2004 年12 月にPeg-IFNα2b/リバビリン併用療法が可能になり、C 型肝炎治療の第1 選択はこの治療になったが、多数例の解析でPeg-IFN、リバビリン併用48 週投与ではうつ病が4.1%、 うつ気分2.2%、うつ症状が7.1%の患者にみられている(2008 年3 月時点の副作用報告の集計)。またPeg-IFNα2a/リバビリン併用療法国内第III相試験(N=199)ではうつ病0.5%、抑うつ気分・抑うつ症状6.0%、Peg-IFNα2a 単独治療(N=178)ではうつ病5.6%と報告されている。これらは全
て主治医判断であり、うつ病、抑うつ気分、抑うつ症状の正確な鑑別は困難ではあるが、精神神経用薬投与やIFN の中止などの何らかの対処が必要な中等症以上の精神症状は、5~10 数%で、対処は必要としない程度の軽症の精神症状は、約30%にはみられると考えられる。
ただ、C 型肝炎にIFN 治療が開始された1990 年代と比べて、副作用やその素因に関する治療する側の医師の知識が増え、不眠を訴える頃から眠剤などの投与が行われ、精神科医のもとでの治療を必要とするような重篤な副作用の頻度は明らかに減少している。
Peg-IFN は週1回投与であり患者の負担が少ないが、患者の高齢化により精神症状の頻度はIFN 単独でもPeg-IFN/リバビリン併用療法でもほぼ同様である。Raison らは、169 人のC 型肝炎患者を対象とした。
Peg-IFN/リバビリン併用療法試験で、治療中39%において抑うつの悪化を認め、抑うつはリバビリン量(対体重比)と有意な相関を示したと報告している。
⑥IFN による精神症状の発現時期と経過
高木は、IFN による精神症状は、IFN 投与後1 ヶ月以内の発症が60%以上で一番多かったと報告した23)。Malaguarnera らの報告14)ではIFN開始4週後が、他の報告17)では12 週後が、最も抑うつの重症度が高かった。IFN 投与後、1~3 ヶ月は注意が必要であるが、Peg-IFN/リバビリン併用療法は通常48~72 週投与されることから、より後期に副作用が出現する傾向になる。なお、IFN の中止後数日~10 日程で消退するといわれていたが、IFN 中止後も精神症状が1 ヶ月以上持続する場合も比較的多く観察され、注意が必要である。特に精神病症状や意識障害を示した例では、症状が遷延することがある。
(3)IFN による精神症状発現の危険因子
IFN による精神症状発現の危険因子として、高用量、高齢、脳器質性疾患(脳萎縮、外傷、脳腫瘍)、精神疾患既往歴や薬物乱用歴、および現在の精神疾患への罹患、IFN 開始前の抑うつ、不眠傾向、疾患に対する不安の強さが挙げられる。また、併用するリバビリンが高用量であった場合(補足:対体重比投与で800-1400mg/日と投与量は変わる)、抑うつ症状(depressive symptoms)の出現頻度が有意に増加したとの報告がある。
精神疾患既往歴、薬物乱用歴、現在精神疾患に罹患していることは必ずしもIFN の禁忌とはならないが、重要な危険因子として考えるべきであることは確かである。場合によっては、入院の上、内科医と精神科医との連携が必要となる。
(4)IFN による精神症状の発現機序
多彩な作用を持つIFN が外部から人体内に大量に入ることにより、神経-免疫-内分泌系のバランスを崩し、直接・間接的に精神症状を惹起する。IFN は、分子量が2 万前後であり、正常脳では血液脳関門(Bloodbrain-barrier: BBB)を通過しないが、第三脳室前壁近傍などからわずかに中枢神経内へ移行しうることが確認されている。
また、IFN の視床下部-下垂体-副腎皮質系や視床下部-下垂体-甲状腺系を介する作用、IFN のオピオイド作用、ドパミンアンタゴニストやアゴニスト作用、ノルアドレナリン、トリプトファン、セロトニンを介した作用、IL-1、IL-2、IL-6、TNF の分泌を誘導したり、TNF-receptor、IL-1α、IL-5、IL-6-receptor、IL-8 を抑制する作用などが関連すると考えられている。他に、IFN 自体が、海馬の神経新生を抑制するとの報告もある。
(5)IFN による精神症状の予防と治療
①IFN の減量・中止および種類の変更
精神症状の出現とともにIFN を中止、または減量することが推奨されている。希死念慮、幻覚妄想、せん妄などの意識障害、躁状態では中止すべきである。軽症の抑うつの場合、IFN の減量や薬剤投与で治療継続可の例が多い。IFN 300 万単位/日の場合、軽い抑うつはあったが、IFN を中止するほどの者はいなかったとの報告がある。
Malaguarnera ら14)は、天然型IFN がrecombinant IFNαより抑うつの惹起が少なく、患者にあったIFN への切り替えを強調しているが、わが国ではPeg-IFN/リバビリン併用療法、Peg-IFNα2a,天然型IFNα、天然型IFNβの単独治療が主で、Peg—IFN/リバビリン併用療法ではリバビリン量にも注意する必要がある。
②精神神経用薬およびその他の薬物療法
軽症の抑うつ状態に対しては、パロキセチン塩酸塩水和物、フルボキサミンマレイン酸塩、塩酸セルトラリンなどの選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やミルナシプラン塩酸塩のセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)など新しい抗うつ薬を使用しながらIFNを継続することが推奨されている7)。ミルナシプラン塩酸塩は肝臓のミクロゾーム代謝経路を経由しないので、特に肝炎の患者に有用である可能性がある。
不安や焦燥に対してはロラゼパム、不眠にはロルメタゼパムが推奨される。いずれも代謝において肝臓への負担が少ない。
③精神療法的アプローチ
IFN による精神症状には患者の心理・社会的要因も大きく関与していることが多い。なぜなら、純粋にIFN による作用のみで精神症状が起きているなら、IFN の使用期間の延長にともない、精神症状の頻度が増すはずだが必ずしもそうではなく、治療期間の終了が近づくに伴い改善することも多い。また、C 型肝炎患者は、肝硬変、肝癌への進行の不安を常に抱えている。実際、IFN を受けていないC 型慢性肝炎患者自体に抑うつや不安が多く認められたとの報告もある。IFN 投与に際しては、十分なインフォームドコンセントのもと、受容的・支持的な態度で接し、精神症状を注意深く観察する。特に不眠や焦燥感が、抑うつに先行して出現するので、それを患者が気軽に相談できる環境を作ることが重要である。
IFN により抑うつが出現した方が抑うつがない場合より、肝炎ウイルスへの治療反応性は良好であったとの報告があり、注目される。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 3

なるほど(納得、参考になった、ヘー) なるほど(納得、参考になった、ヘー)
かわいい

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック

  • プラダ メンズ

    Excerpt: インターフェロン製剤によるうつ病~薬剤惹起性うつ病 保健情報に関するブログ/ウェブリブログ Weblog: プラダ メンズ racked: 2013-07-07 04:33