副腎皮質ステロイド薬によるうつ病~薬剤惹起性うつ病

6月に厚生労働省が重篤副作用疾患別対応マニュアルで「薬剤惹起性うつ病」に関するマニュアルの掲載されている、副腎皮質ステロイド薬によるうつ病を紹介します。

副腎皮質ステロイドは皮膚疾患や一部の難病にも使用されることが多いようですので、注意が必要です。

【副腎皮質ステロイド薬によるうつ病】
(1)ステロイド薬による精神症状の種類
1940 年代後半にステロイド薬が導入されて以来、喘息、アレルギー、膠原病、種々の皮膚疾患などさまざまな病態に用いられている。その効果は広く認められているが、副作用もさまざまで、躁状態、抑うつ状態(ステロイド薬によるうつ病)、幻覚・妄想状態、せん妄などのさまざまな精神症状が生じうる。その中で、うつ病は頻度が比較的高い精神症状である。
(2)ステロイド薬の投与量
プレドニゾンの投与量が40 mg/日を超えるとうつ病の発症率が増加するという意見がある12)が、後述するように、10~20 mg/日程度であってもうつ病を生じる可能性がある。
(3)ステロイド薬の投与期間
早い患者ではステロイド薬の投与初日に生じ、遅い患者では3 ヶ月以降になる。多くの症例では数日から1、2 週間後が多い。
(4)患者側の危険因子
女性が罹患しやすいが、年齢や精神疾患の既往の関連は否定的である。
(5)早期に認識しうる症状
ステロイド薬投与後に、抑うつ気分や不安感、焦燥感、不眠や食欲低下など、うつ病の一般的な症状として生じることが多い。しかしながら、いわゆる制止型うつ病の病像というよりは、焦燥型うつ病の病像をとるものが多い印象がある。したがって、不安感や焦燥感などは重要な指標と考えられる。
(6)病態生理
うつ病患者では血中コルチゾール値が高く、海馬も萎縮していることが指摘されている。クッシング症候群の患者においても海馬が萎縮しており、その程度が血中コルチゾールと相関していることが報告されている。さらに、副腎腫瘍を切除してクッシング症候群が治癒すると血中コルチゾールの正常化に伴い海馬の体積も正常化したことが報告されている。このようなことから、ステロイド投与の際にも同様の現象が生じ、抑うつ状態が発症する可能性が推測される。Brown らは、プレドニン(国内未承認:調査時の平均15.6 mg/日)を平均92 ヶ月投与されていた17 名の患者(プレドニゾン投与群)と、身体疾患や性・年齢を一致させた15 名(対照群)の患者の海馬の体積、代謝率、記憶と気分を比較した。その結果、プレドニゾン投与群の方が対照群よりも左の海馬は7%有意に小さく、右の海馬は9%有意に小さく、海馬の代謝率(N-acetylaspartate を指標にしたもの)、記憶、気分も有意に悪かった。これらの所見は、ステロイドが海馬に影響を与えて形態やその機能を障害し、記憶や気分を損なう可能性を示唆している。この研究でさらに興味深いことは、平均15.6 mg/日という比較的少量のステロイドで有意な変化が認められていることである。
(7)早期発見と早期対応のポイント
まずは、ステロイド薬を投与する際に、抑うつ状態が生じる危険性を念頭に置くことが重要である。どの程度の投与量で生じるのかは個人差があるが、先にも述べたように、40mg/日を超えると起こしやすいので要注意であるが、先述したBolanos ら2)やBrown らなど最近の報告では10 mg/日台で抑うつ状態を惹起する可能性もある。また、女性に投与するときも要注意である。鑑別を要するのは、全身性エリテマトーデス( Systemic lupuserythematosus: SLE)などしばしば精神症状を生じうる原疾患に対してステロイド薬を投与した時である。その抑うつ状態がSLE によるものか、ステロイド薬によるものか、結局はSLE の活動性の推移とステロイド薬の投与の経過を縦断的に検討して判断することが重要となる。ステロイド薬を減量して精神症状が改善すれば、ステロイド薬による可能性があり、その逆(ステロイド薬を減量して精神症状が増悪)は原疾患による精神症状が疑われる。
(8)治療方法
もし、ステロイド薬が減量できるようであれば、主治医と相談の上、減量することが原因治療となる。しかし、原疾患の活動性が亢進しており減量できないとき、もしくは減量しても抑うつ状態が改善しないときに薬物治療が必要となる。以前から、三環系抗うつ薬や四環系抗うつ薬を投与すると焦燥感や幻覚・妄想が悪化することが多いことが知られている。そこで、リチウム8,25)や選択的セロトニン再取り込み阻害薬を投与する試みがなされており、それなりの効果をあげている。しかし、依然としてエビデンスとしては不十分であり今後の検討が必要である。
(9)参考事項
1983 年にLewis らは自験例と合わせた総説をまとめた。投与量に関しては、プレドニゾン(国内未承認)を40 mg/日以上投与されていた患者に多く精神症状が生じていた。有病率に関しては、比較的軽度の気分変化を把握した11 の研究(比較対照をもたないもので、患者数は計935 名)では、ステロイド薬による精神症状の有病率は13 から62%(重み付け平均27.6%)であった。比較的重度の精神症状を扱った13 の研究(やはり比較対照をもたないもので、患者数は計2,555 名)では、1.6%
から50%(重み付け平均5.7%)であった。精神症状の種類は、55 名の症例報告を検討したところ、22 名(28%)は躁状態、32 名(40%)は抑うつ状態、6 名(8%)は混合状態、11 名(14%)、8 名(10%)はせん妄であった。危険因子として年齢、精神疾患の既往はやはり否定的であるが、女性であることは原疾患の性差を考慮しても、なおステロイド薬による精神症状と関連しているものと考えられる。抑うつ状態に限定した調査では、Patten20)が2000 年にカナダの一般人73,402 名を対象とした横断的な調査を行っている。回答のあった70,538 名中815 名が調査の前月にステロイド薬を服用していた。ステロイド薬を服用していた者の大うつ病の有病率は11.1%(95%信頼区間は6.6~15.5)、服用していない者のそれは4.1%(3.8~4.5)で有意差があった。さらにPatten ら21)はステロイド薬のみならず降圧薬や抗ヒスタミン薬、ホルモンなど抑うつ状態を起こしうると報告されている薬物に関し広く調査を行った。ここでもステロイド薬と抑うつ状態の関連は有意であり、ステロイド薬を服用していた者の大うつ病有病率は服用していない者の2.28 倍(95%信頼区間は1.11~4.68)で男性では0.92倍(0.13~6.43)と有意でなく、女性では3.02 倍(1.74~5.24)と有意であった。年齢では、45 歳以下ではステロイドの服用者に3.61 倍(1.92~7.76)有意に大うつ病が多く、45 歳より年長だと1.57 倍(0.37~6.58)と有意差が消失した。これらは、横断的な研究であり、因果関係を示唆するものではない。
ステロイド薬が精神症状の原因となりうることを示すには、ステロイド薬を投与せず他の患者背景が同様の対照群と比較することが必要となる。2004 年にBolanos ら2)は、少なくとも7.5 mg/日のプレドニゾン(国内未承認)を6 ヶ月以上投与されている患者20 名と、ステロイド薬を投与されておらず他の患者背景が同様の対照群14 名を精神症状の点から比較した。患者群は調査時点で平均19.1 mg/日のプレドニゾン(国内未承認)を平均10 年間投与されていた。その結果、患者群では調査時点で抑うつ状態が認められた患者が3 名、対照群では0 名、患者群で過去プレドニゾン(国内未承認)投与中に抑うつ状態が認められた患者は7 名、対照群では0 名であり、有意に患者群の方が抑うつ状態に罹患した、もしくは罹患している患者が多かった。ハミルトンの抑うつ状態評価尺度得点も患者群の平均が16.2 点、対照群の平均が4.5 点と有意差が認められた。これらの所見は、ステロイドが抑うつ状態を惹起する可能性を強く示唆していると考えられる。また、以前の研究ではプレドニゾン(国内未承認)40 mg/日がひとつの閾値となっていたが、それよりも少ない量で抑うつ状態が引き起こされる可能性も示唆される。

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